不憫さを確かめる日記 25

中学一年生の頃、クラスが一緒で席が近くだった男の子を好きになった。彼はとても見た目が可愛らしく、(彼のお姉さんは今田美桜にそっくりな美人だった。)不思議な言動でみんなを笑わせ、男女どちらからもすごく人気のある人だった。私はそんな彼と近づくために彼の好きな漫画をリサーチしてから会話を徐々に増やし、漫画を借してもらえるまでに進展させた。漫画を口実に二週に一度の頻度で二人きりで会っていたくらいには、いい感じだった。

しかし、後から思うと彼は女の子の扱いに長けており、女の子を喜ばせるのがうまい人だった。

彼はLINEで、いろんな言葉で私を褒めた。「いい匂い」「可愛い」「スタイルがいい」「色が白い」「髪が綺麗」「やさしい」など、月並みではあるが、醜形恐怖症に片足を踏み込んでいた当時の私にとっては、甘い言葉だった。その頃の私は、お風呂に入る前や夜中に、スマホの外カメラで自分の顔を360度いろんな角度から何枚も撮影して客観視しては絶望し、かなりの頻度で泣いていた。その写真は何百枚にも及んでいた。自分の顔が気になり、こまめに鏡を見ずにはいられなかった。自分の横顔のコンプレックスから、教室で後ろにプリントを渡すとき、醜い右側の顔ではなくマシな左側でしか横を向けなくなっていた。そんな具合だったのである。

そんな中、人気者の彼に甘い言葉をかけられていたものだから、救いのように思えた。毎日毎日LINEのやり取りを見返してはニヤニヤしていた。そんな風に何度も何度も褒めてくれる彼のことが好きで、依存していたのである。

彼とのLINEはほぼ毎日となり、連絡が来ない日はそれで頭がいっぱいになった。彼がカースト上位の女子たちと遊んでいる様子をSNSで見てはひとり家で憂鬱になり、ポエムじみたイタいツイートを裏垢に投稿したりしていた。

しかし、私は彼に誘われて共通の友人である男子1人を交えて休みの日に遊びに行ったりしていた。意気地なしの私は、中学1年の春から中学2年の夏になるまで思いを伝えることもせず、現状維持だけで幸せを感じていた。

ある日、彼から「ふたりで映画を見に行こう」と誘いが来た。これは確実にデートだと思った。嫌いな女の子には誘ったりしないだろうと考え、すこぶる舞い上がっていた。これはひょっとしたら両思いなんじゃなかろうかと想像しては、天にも昇る気持ちになっていた。しかし、結果的にそのデートは実現しなかった。

中学二年の夏に、近所で夏祭りがあった。そこへ彼が行くという噂をつかんだので、私は友達を連れてそのお祭りへ赴いた。彼は、バスケ部のイケイケカップル2組と一緒に居たのだ。その日はまあそれだけで家に帰ったのだが、彼と私の共通の友人である男からLINEが来た。「悲しいお知らせがあるけど聞きたい?」と言われた。私ははいと答えてその内容を聞いた。私の好きなその彼には、彼女が居るというのだ。本当はトリプルデートの予定だったが、彼の彼女が来られなくなっていたらしい。「今日のお祭りでお前を見ててつらくなってさ 黙っててごめん」と、なんともカスなことを言われた。私は絶望した。今まで1年以上かけて築き上げてきた彼との大事なものが、誇張ではなく崩れ落ちる音がした。風呂場の鍵を閉めて大号泣した。彼が私に甘い言葉をかけていたあの時間にも、彼にはとびっきり可愛い彼女がいて、器用に連絡を平行してやりとりしていたのだ。つまり女たらしだったのだ。

さらに後から聞いて分かったが、彼には私の他にも頻繁にやり取りをする女の子が複数居た。私を今まで褒めてくれたあの言葉も全部嘘だったんだと、ただでさえなかった自信を失くし、人を信じることが出来なくなった。人間不信の大完成である。

その後、色々あって私が彼に責められる立場になってしまい、「全部私が悪かった」となぜか私が謝罪し、つながりは断たれた。それ以降は彼を避けて卒業まで生活した。人に褒められても信じることができず、自信の付け方というものがさっぱり分からなくなり、さらに引っ込み思案になっていった。ますます自分の見た目が醜く思えて、二つ結びすらできなくなり、自分から話しかけるということができなくなっていた。

それ以降は長らく人を好きにならなかった。知らぬ間に好きになられたことはあったが、全部どうでもよかった。